前回ブログで書いた「お医者さんが言っている論文ってどのようなもの?」に関連して、臨床研究に関する英語論文がどのような流れで書かれているのか問い合わせがあったので解説します。
大まかな流れ
大まかな流れは以下になります。あくまで、ひだまりの経験に基づいた流れです。
- 研究テーマ・試験デザインの決定
- 倫理委員会の承認
- UMIN登録
- 試験開始・データ収集・データ解析
- 論文執筆
- 英文校正
- 投稿
- 投稿経過、アクセプト
- 掲載
研究テーマ・試験デザインの決定
まず、研究テーマを決めます。なにを検証したいかです。これがなかなか厄介です。ひだまりは、研究テーマを決める時には、「せっかくやるからには、世界初の研究を!」的な感じで変に力が入ってしまいます。しかしながら、当然ひだまりが思いつくレベルの研究テーマ・内容などは、だいたい他の方がやられています。また、ひだまりのように市中病院に勤務する医師には研究費などはありません。そのため遺伝子を調べたり、薬剤を投与したりする研究は、検査の費用や保険費用がかかってしまうのため難しくなります。研究テーマが決まったら、それを実証するためにはどのような検討方法がいいのか、試験のデザインを決めます。昔のデータを掘り起こして検討する、もしくは今あるデータでやる研究ならやり直しができます。一方で、新たにデータをとったりする研究の場合は、一度開始してしまうとやり直しができません。そのため、新たにデータを取る場合は、慎重にならなければなりません。人の話を聞かないひだまりでも、この時ばかりは、第三者の眼が本当にありがたくなります。この試験デザインなら完璧だと思って、臨床研究計画書を作っても、他の人の眼でみると間違いや、ぬけがあることがよくあります。
倫理委員会の承認
最終的に臨床研究計画書が完成したら倫理的・人道的に問題がないか、所属施設の倫理委員会で審議されます。倫理委員会で審査してくれる人はどのような人かというと・・・施設により構成人数や構成メンバーの役職に若干の違いはありますが、下記に該当する方で構成されています。
「医学・医療の専門家等自然科学の有識者、法律学の専門家等人文・社会科学の有識者及び一般の立場を代表する者から構成され、かつ、外部委員を含まなければならない。 また、男女両性で構成されなければならない。」
当然といえば当然なのですが、審議のために倫理委員会に参加したときは緊張します。
UMIN登録
倫理委員会でOKがでれば、日本でやる臨床試験はほとんど大学病院医療情報ネットワーク(UMIN:University Hospital Medical Information)というところに登録します。(UMINはユーミンと読みますが、歌手ではありません。)
UMINに登録することで以下の点がメリットになります(ひだまり主観です)。
- どこでどのような研究がいつから行われているかわかるので、同じような研究が重複して行われる頻度が減ります。
- この研究は、きちんと登録してすすめているので、捏造したものではないのだよ、信頼できる研究だよとアピールできます。
- その研究のことを患者さんや、研究者がみると自分も参加、協力したいとなり、研究の参加者が集まりやすくなります。
試験開始・データ収集・データ解析
UMIN登録後、実際の臨床試験開始となります。なかなかデータが集まらないとつらくなります。そして目標症例数のデータが集まったら、データの解析に移行します。データの解析については、統計的に解析を行うことがおおいのですが、ここでもひだまりは苦労します。大学で統計の授業があったはずなのですが、内容はほとんど覚えていません。統計の先生にこの統計方法であっているのか質問をしながら解析します。また、統計の解析ソフトがないと統計解析も困難です。SPSSなどの有名な解析ソフトは高額なので購入も困難です。ひだまりは統計ソフトについては、エクセル統計を使用してます。エクセル統計のいいところは、エクセルに入力したデータでそのまま解析できるところです。また以前は、SPSSなど有名が解析ソフト以外で解析すると、レビューアーからなにか言われるなどのうわさがありましたが、決してそんなことはありません。
統計については、解析方法があっているかが一番心配なので、統計の先生と知り合いかどうかによって、安心感がまったく変わってきます。本当に医学は人とのつながりが大切です。
論文執筆
解析が終わったら、ひだまりは、Google翻訳先生と相談しながら英語論文を執筆します。もちろん、Google翻訳先生と相談しなくても英語論文を書ける先生はたくさんいらっしゃいます。ひだまりはGoogle翻訳先生が恩師だと思っております。驚くべきことにGoogle翻訳先生は日々進化しておられます。昔は、なんだこれは・・・という英語になることも多かったのですが、最近は専門的な内容でもかなり適切に英語翻訳してくださいます。
英文校正
自分なりの英語で論文が完成したら、英文校正に提出します。英文校正とは、ひだまりがGoogle翻訳先生に指導していただきながら書いた文章が、ネイティブスピーカーからみておかしくないか校正していただく作業です。英文校正をしてくれる会社はいくつかあるのですが、値段やサービスはさまざまです。原稿の量やサービスの内容によって値段は変わりますが、安い場合でも数万円はかかります。ここでも懐に痛みを伴います。ここで厄介なのが、校正者が、論文の研究テーマに疎い方に当たった場合です。英語は完璧でも、研究内容を理解してもらえないと、ちぐはぐな英文になって帰ってきます。そのため、ちぐはぐになってしまった英文を校正者に説明しながら再度修正してもらいます。もちろんやりとりは英語でのやりとりです。なんなら、校正者への修正依頼・質問の英語も誰かに校正してほしいくらい不安いっぱいの英語でやりとりします。
投稿
英文校正まで終了すると、いよいよ投稿です。研究テーマと学術誌のテーマが一致しているところに投稿します。該当する雑誌はいくつかあるのですが、その雑誌のインパクトファクターと相談しながら、投稿先を決めます(インパクトファクターについては、お医者さんが言っている論文ってどのようなもの?をご参照ください)。初回は、「これくらいのインパクトファクターの学術誌なら掲載してもらえそうかな」というところのやや上の雑誌に投稿するのがセオリーです。投稿はネット経由で行うのですが、慣れないと投稿が終了するだけで数時間かかってしまいます。最近はハゲタカジャーナルと言って、「論文を掲載してあげるから掲載料(高額)をよこしなさい」とお金目的の学術誌もあります。気づかないで投稿すると後日高額の掲載料を請求されます。
投稿経過、アクセプト
投稿が終わると、その雑誌の投稿画面に、「今あなたの論文はこの状態だよ」という経過が表示されます。ひだまりは、好きな女の子とのLINEかというくらい、その雑誌のホームページを朝、昼、夕、なんなら寝る前見て、自分の論文がどこまで掲載のための審査がすすんでいるか確認します。投稿した論文は、まず編集者チェックがはいります。編集者が内容をざっとみて、査読者(その研究ジャンルに精通した人がなる)に読んで評価してもらう価値のある論文かチェックしてくれます。この査読者は本当にありがたい存在で、無料で論文を読んでコメントをくれて掲載に値する論文がどうか判定してくれます。ひだまりも何度か査読者をやったことがあるのですが、なかなか大変な作業です。査読者はほぼボランティアですが、最近は労働対価を払うべきではとの意見もあるようです。あまりにダメな内容だと査読者に送られる前にReject(不合格のことです)になります。編集者の段階でRejectになるのを業界用語で「一発Reject」と言います。「一発Reject」 になるとそれなりに傷つきます。査読者は内容を読んで、Accept(合格)、Revise(修正したらAcceptにするかもよ?的な感じです) 、Reject(不合格)のいずれかが妥当か評価してくれます。Reviseになったら、査読者に指摘された点を修正して再投稿し評価してもらいます。Rejectになった論文は、別の雑誌に投稿します。これだけの経過なのでAccept(合格)を見たときは、ほんとうにうれしい気持ちになります。
掲載
論文がAcceptされた後は、その雑誌の編集部の方がその雑誌のスタイルにあわせて論文をきれいに仕上げてくれます。自分の論文がPDFファイルできれいに仕上げられて送られてきたのを見たときは、感慨深いものがあります。最終的には、本になって刊行されますが、電子ジャーナルといってオンラインでしか見られない学術誌ものもあります。
以下が、英語論文が出版されるまでの大まかな流れです。時には年単位の仕事になることもあるので、無事雑誌に論文が掲載されたのを見たときは、かなりの感動があります。ひだまりは、現在はあまり研究はやっていないのですが、臨床の仕事や家庭の中のことをこなしながら上記のことをこなすのはかなり大変です。しかし世の中には、ひだまりと同じような環境にいながら一年間に何本も論文を書く先生もおられます。ほんとうに上には上がいる世界です。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。免責事項も御一読お願いします。
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